回想 子規・漱石

高浜虚子による正岡子規回顧録。何かの本で、この本に収録されている「子規居士と余」というのを知って興味を持っていたので買ってみた。


高浜虚子正岡子規は明治期から大正期における俳句界の巨頭であるが、両人とも同じ伊予松山出身ということもあり、無名時代から師弟関係にあったようだ。


私は、正岡子規の病床にありながら人一倍の「生きる」というエネルギーに満ちているところがとても好きなのだが、高浜虚子はなんとなくつかみづらい感じがして好きではなかった。
しかし、この本を読むとそうではなく、高浜虚子は意外にも退学や復学を繰り返してフラフラし、なかなか将来を決めきれないところがとても人間くさく感じ、いままでのイメージとはまったく違う印象を受けた。また、そういう生活の中で師匠に当たる正岡子規との関係が細かく描写されており、当時の二人の雰囲気というものがよく分かる文章だった。


正岡子規高浜虚子のことを後継者と目しながらも虚子がそれを拒絶し、一度は距離を置いたこともあったようだが、やはり二人の間はそう簡単に壊れるものではなかったようだ。虚子はその理由が正岡子規という親分の弟子に対する愛情によるものだと書いているが、虚子の正岡子規に対するそれも同じほどあったのではないかと思う。


最後の正岡子規が亡くなる場面は、淡々と書いてあるがさすがによく表現されている。虚子が河東碧梧桐らを呼びに行く場面などはわずか数行の文章なのだが、情景がまざまざと目に浮かぶようであり、鳥肌が立つほどの臨場感を感じた。淡々と書いてあるが虚子にとってはそれほど大事な瞬間だったんだろう。

回想 子規・漱石 (岩波文庫)

回想 子規・漱石 (岩波文庫)